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最高裁判所第二小法廷 昭和23年(テ)3号 判決 1950年6月02日

主文

本件再上告を棄却する。

再上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人弁護士吉岡秀四郎、同吉永多賀誠、同横地秋二の上告理由第一点、第二点について。

東京高等裁判所が裁判所法施行法の規定に基づいて上告審としてした終局判決に対してはその判決が憲法に違反することを理由とするときに限り最高裁判所に再上告をすることができるのである。そして形式上憲法違反を主張する上告理由であつても実質上単に実体法及び訴訟法の違反を攻撃するに過ぎないと認められるものは再上告適法の理由とならないのである。よつて本件再上告理由が再上告適法の理由となるかどうかを検討する。本件再上告の理由は要するに原審は真に上告理由を判断する意思はなく最初から上告を棄却せんとの意図に基づき専ら棄却に好都合な資料のみを探求し判決の形式を装い上告の棄却書又は判断拒絶書を作成したものであり、又原審は上告人の主張した退職慰労金の存在、仮払金債務の不存在及び慰労金を仮払金に充当することの不当なることに対する裁判をなさざる不法があるものであるから原判決は憲法第三二条に違反するものである。又原判決は上告人の有する本件退職慰労金債権を給付を求め得ない債権と認めたことは右債権を侵害したものであつて憲法第二九条第一項の規定に違反するものであるというのであるから形式上憲法違反を主張するものであるが、原判決が真に上告理由を判断する意思なく為されたものであることはこれを認むべき何等の資料がないのみならず、かえつて原判決その他一件記録に徴すれば原審は上告理由書に基づき裁判を遂げていることが明白であるからこの点に関する論旨は名を憲法違反に藉りその実質は上告理由に対する原審の判断の不当を攻撃するに過ぎないものである。又原審が上告人の主張につき裁判をなさざる不法があるから憲法第三二条に違反するとの論旨も亦実質は原判決の判断遺脱又は理由不備を主張するに帰し憲法違反の主張とはいえないのである。次に原判決は上告人の有する本件退職慰労金債権を侵害したもので憲法第二九条第一項に違反する旨の論旨も亦実質上は憲法違反の主張と認めることはできない。けだし財産権の存否の判断は裁判所に委せられているのであるから裁判所がその財産権の存在を肯認しなかつた場合には最早やその存在を主張することができないのである。従つて裁判所が当該財産権の存在を肯認しないことがその財産権の侵害となるという主張は憲法違反の問題とはなり得ないからである。

以上の次第で本件再上告理由はすべて実質上憲法違反の主張とはいいえないのであるから再上告適法の理由とならないのである。

よつて民訴第四〇一条、第九五条、第八九条により主文のとおり判決する。

この判決は裁判官全員一致の意見である。

(裁判長裁判官 霜山精一 裁判官 小谷勝重 裁判官 藤田八郎)

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